削りくず

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「木工は、木を削って減らしてゆく仕事なんだなあ」


「木工の世界」という本に出てくる言葉です。
著者は木工家の早川謙之輔さん。僕が訓練校で学んでいる時期に読み、卒業後は早川さんの工房に入りたいと思ったほど、本書に魅了されました。残念ながら何年も前に早川さんは他界されていて、その思いは叶わなかったのですが。

冒頭の言葉は早川さんの仕事場を訪れた画家の口から出たものです。
木工を、作る、という側から見ていた僕にとって、別の角度の見方から出た言葉はとても印象に残りました。

本を読んでから10年になりますが、今でも、作業中に、ふと、この言葉がよぎることがあります。

ご存知のように生きた樹木は根から水を吸いあげ、幹を通して、葉で蒸散させます。そのため、切り倒したばかりの木は、水を多く含んでいます。まずは丸太のまま、そして、板に挽いて、と段階を踏んで水分を抜いていきます。木の種類や厚さによって違いますが、何年も寝かせて、ようやく木工の材料として使えるようになります。
乾燥していく過程で、真っ平らに挽いたはずの板は、縮み、反り、捻れます。
だいたい、どんなものを作るときも、まずは乾燥して変形した板を削って、平面を作ることから始まります。
そして、設計通りの寸法に厚さを削り、曲面があればその形に削り…と、まさに冒頭の言葉通りなのです。

そのため、何か作るたび、たくさんの削りくずも出来あがります。
この削りくず、工房では、せいぜい冬場の薪ストーブの火付けくらいしか使い道がありません。

そこで、うちでは知り合いの米農家、大平さんに引き取ってもらっています。
大平さんの田んぼは粘土質が強く、水はけが悪いので、削りくずを混ぜて水はけを良くするのだそうです。

大平さんの田んぼは山間にあり、直に山の水を引いています。
「山の水は冷たいから、面積当たりの収穫量は少ないけれど、とてもきれいな水だから、抜群においしいお米が出来るんだ」
と、大平さんは自分の作るお米に自信があります。

そして、そのお米をいただく僕は「確かに…」と水の大切さを説く大平さんの言葉に納得せざるをえません。

米も、野菜も、家畜も、魚も。どれも、水が体内を巡るのだから、きれいな水が、味に直結していても不思議ではないのかもしれません。

さて、今年もまた、楽しみにしていた新米の季節がやって来ました。

9月、大平さんの田んぼにて

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